そもそも口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)って何?
扁平苔癬は皮膚や口の中にできる角化性の病変で、約50%の症例で口の中の粘膜にも現れると言われており、口の中のものを口腔扁平苔癬と呼んでいます。
最もできやすい場所は頬の内側の粘膜(頬粘膜)で、全体の80~90%を占めます。頬粘膜でも特に上下の歯の咬み合う位置に相当する部分によく現れます。また、口蓋(上アゴの天井部分)、舌、唇、歯茎にも現れることがあります。銀歯や入れ歯の金属部分が触れる部分に多く発症します。
原因や悪化要因について
はっきりとした原因はわかっていません。しかし、次のようなことが発症に関わっている可能性が指摘されています。
金属アレルギー
口腔扁平苔癬は銀歯や入れ歯の金属部分が触れる部分に発症することが多く、特にかつてよく使われていたアマルガム合金に接する部分によく起こることが分かっています。金属を除去すると口腔扁平苔癬が治ったり、軽快するということがよくあります。
口の中の汚れやガルバニー電流
口内の汚れやガルバニー電流(異なる金属同士が唾液を介して接触した時に流れる、微弱な電流)は、銀歯などの金属が腐食して溶け出す要因となるため、金属アレルギーに間接的に関わっていると考えられています。
喫煙やストレス
これらは免疫力を低下させることで、症状を悪化させるとされています。
C型肝炎ウィルス
C型肝炎に感染している人に口腔扁平苔癬を持つ人が多いことが分かっており、ウイルスと何らかの関係があると考えられています。
薬剤アレルギー
薬剤アレルギーとの関連もあるとされており、血圧の薬として使用されるβブロッカー(β遮断薬)やACE阻害薬、鎮痛剤としてよく使われているNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)、糖尿病の薬であるスルホニルウレア、抗リウマチ薬として使われる金製剤やペニシラミン、利尿薬であるチアジド、そして抗マラリア薬などが報告されています。
遺伝
遺伝的な素因を持っている人もいるとされ、その場合自己免疫反応(白血球によって自分の皮膚細胞を攻撃してしまう)によって起こると考えられています。
症状について
レース状・網状の模様が典型的
幅1~2ミリ位の白いレース状・網目状の模様(Wickham線条)で現れることが多く、周囲の粘膜はただれて赤みをともないます。また、この模様は日にちが経つにつれ、形を変えたり、赤みが強くなったりと変化をします。
様々な型がある
レース状・網状の他にも、びらん(ただれている状態)、潰瘍、小な水ぶくれを生じたり、扁平紅色苔癬と呼ばれる赤い状態になることもあります。また、長く続いている場合には褐色に色素沈着している場合もあります。このように、扁平苔癬はワンパターンではなく、様々な状態で現れることが多いため、型の分類がなされています。
<扁平苔癬の分類>
- 網状型
- 丘疹型
- 線状型
- 斑状型
- びらんまたは潰瘍型
- 小水疱型
- 色素沈着型
左右両側、対称性に現れることが多い
口腔扁平苔癬は左右対称に現れることが多く、診断の決め手となりうるものです。
女性に多い
女性起こる場合が80%ぐらいと多く、40~70歳代、特に50~60歳代に多く見られる傾向があります。
自覚症状で多いのは接触痛
触れた時に痛む接触痛が最も多く、口の中の荒れ、出血、味覚障害、灼熱感や不快感などなども伴います。また痛みが原因で摂食障害を起こすこともあります。
慢性的に軽快、悪化を繰り返す
症状は慢性経過をたどり、軽快、悪化を繰り返します。1年~10年くらい続くものが多いと言われています。
自然治癒することもある
線状・網状のものは自然に治ってしまうこともありますが、潰瘍型のものでは自然治癒はあまり期待できません。自然治癒率は2%ほどとされています。
まれにガン化する
慢性経過をたどることが多いため、慢性炎症が繰り返すことでガン化しやすくなると考えらえています。ガン化するのは全体の1%ほどであるとされています。
検査方法について
主に口腔外科や皮膚科で行われます。
主に口腔外科で行われること
- 視診;見た目の特徴的な症状を確認します
- 生検;病変の一部を切り取って顕微鏡で検査します
主に皮膚科で行われること
- パッチテスト;歯科金属に使用される金属を貼り付けた絆創膏を皮膚に貼り付け、アレルギーの原因となっている金属を調べます。
治療法について
口腔扁平苔癬は原因がはっきりとしていないため、決定的な治療法がなく、難治性で、治療は長期にわたることが珍しくありません。網状や線状のもので自覚症状のないものは治療の必要はありませんが、その後の経過は観察する必要があります。自然に治る場合は全体の2~3%ほどです。
治療を行う場合、次のような方法があります。
1.薬物治療
<ステロイド軟膏>
最初に行われる対症治療であり、ステロイド剤(ケナログ、アフタゾロン、デスパコーワ、デキサルチンなど)の軟膏が処方されます。2週間~4週間ほど使用し、改善が見られない場合には他の治療法が行われます。
<飲み薬>
飲み薬による治療としては、服用ステロイド剤、ビタミンA剤、免疫抑制剤などがあります。また漢方薬が使用されることもあります。
<口腔扁平苔癬に使われる漢方薬の例>
- 黄連湯
- 加味逍遥散
- 知柏地黄丸
<うがい薬>
口の中を清潔に保つ補助としてうがい薬もよく処方されます。アズノール、イソジン、ネオステリングリーン、ハチアズレなどが使われます。
2.金属アレルギー治療
アレルギーのパッチテストの結果、アレルギー反応の出た金属が口の中にあれば、その金属を徹底的に除去し、プラスチックやセラミックなど、他の素材に変えます。
3.口内の清掃
口の中の汚れは金属イオンを溶出させる原因になることから、徹底的に取り除く必要があります。歯科医院では歯石や自分では取りきれない歯垢を、歯石除去の機械やPMTCというプロのクリーニングにより、徹底的に取り除きます。
4.歯の治療
虫歯や欠けた歯が口の粘膜を刺激していることが考えられる場合、治療をし、刺激源を取り除きます。
5.家庭での自己管理
徹底したブラッシングにより口を清潔に保つこと、タバコを控えることなどに注意を払います。歯磨きを行う際は歯磨き粉の刺激が症状を悪化させてしまうこともあるため、場合によっては歯磨き粉の使用は控えることも必要となります。また、ストレスとの関連もあるとされているため、ストレスを溜めすぎない健康的な生活を送ることも重要です。
6.その他
その他の治療法としては、病変部の切除やレーザーで取り除く治療、鍼治療などが行われる場合もあります。
似たような病気を教えて!
口腔扁平苔癬と鑑別診断が必要となる病気としては白板症、尋常性天疱瘡、カンジダ症、多形性紅斑、アフタ性口内炎、口腔ガンなどがあります。
口腔扁平苔癬について まとめ
口腔扁平苔癬は完治が困難だと言われており、良くなったと思っても何度でも再発してしまうのが厄介なところです。また、完治しない場合はその症状をコントロールしていくことが目的となり、定期的に歯科で検診を受け、悪化させぬように口の中の環境を良い状態に保つことが大切です。ストレスを溜めずに気長に病気と付き合いながら治療をしていくことが症状の軽快につながっていくと言えるでしょう。
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