歯科には保険でできる治療、保険でできない治療が存在しています。しかし、一般的にこの差はあまりわからないものです。
なぜ、歯科には保険でOKのものと、そうでないものが存在しているのでしょうか。また、保険適応外の治療はただの贅沢な治療だというのは本当なのでしょうか。
今回は、歯科の保険診療と自由診療について、歴史を紐解きながら解説します。
歯医者さんに「保険の効かない治療ってなんですか?」と聞くと一般的に下記の3つだと答えるようになっています。
保険が効かない歯科治療の代表はこの6つ
①金属ではなく、セラミックは保険が効かない
金属ではなく、陶器で人工の歯を作るセラミック
②インプラントも保険が効かない
骨に人工の歯を埋め込む治療インプラント
③歯列矯正は特殊なケース以外は保険が効かない
歯並びを整える歯列矯正も保険の範囲外(神田ふくしま歯科)
④病気のない人にする予防処置は保険が効かない
予防は保険の対象外。
⑤金属で作る入れ歯も保険外
プラスチックではなく、金属を使用した入れ歯も保険は効かない(デンタルラボ)
⑥ホワイトニングなど見た目の美しさを向上させるものも保険は効かない
近年増加しているホワイトニングも歯科の保険は効かない。(ホワイトエッセンス)※ホワイトニングは審美という見た目をよくする方法なので、今回の自由“診療”のお話とは観点が少し違います。
一般的に歯医者さんは、保険対応外のものについて教科書どおりにセラミック、インプラント、矯正、予防、金属入れ歯、ホワイトニングと教えてくれます。実際に保険範囲外の治療の6割が保険の銀歯ではなくセラミックなどを使用した治療だとされています。そして、残りの大半が金属入れ歯、矯正とされています。
では、この教科書どおりの元となる教科書にはどのようなことが書いてあるのでしょうか。見ていきましょう。
保険が効かない治療は贅沢で必要のない治療なのか
保険が効くものと効かないものを定めているのは厚労省です。厚労省では
「通常、歯科治療に必要な処置は保険でまかなうことができる」
と表向きには説明しています。
つまり、保険の効かない自由診療を提供する歯科医は通常の歯科治療に必要のない処置を行っているとされているのです。
学問的には認められていない治療や贅沢な治療を患者に対して行っているのが自由診療だという解釈となります。
あくまでこれは保険のルールの解釈となりますが、「保険が効かない=贅沢な治療」という暗黙知はここから来ています。
簡単に言うと
- 保険の銀歯ではない、セラミックは贅沢品。
- プラスチックを使っていない入れ歯は贅沢品。
- 見た目を直す歯列矯正は贅沢品。
だから保険適応外にすると定められているということです。
歯科治療には保険の効く治療と効かない治療の2つがクッキリと存在している
歯科治療は一般的な病院での治療や入院とはことなり、初めから終わりまで保険を使用する治療と全て自費(保険の効かない全額自己負担)の治療の2つが存在しています。実際は保険治療を行い、途中で自費に切り替えるということが多いようです。
つまり、一部保険で治療を行いながら自費を組み合わせて治療を行うということが出来ないのです。
国民健康保険と自費治療を混ぜて行う混合治療は歯科ではできないルールになっている
では、そもそも保険診療とはなんなのか?
保険診療は私達が支払っている保険料に応じて国が病気や怪我の面倒をみてくれる制度です。日本は国民皆保険制度といって基本的に全国民が保険に入っている世界でも珍しい国です。だからこそ、怪我をした時に私達は実際にかかる金額の数分の一程度の治療費で済むのです。
海外旅行などで怪我をしたら、治療費がとてもかかってしまうのは保険が効かないからです。
国民皆保険制度は貧富の関係なく誰にでも、どこにいても、いつでも必要な治療を受けることができる制度です。
※たとえばイギリスでは、原則として、居住地域の家庭医をまず受診しなければならないなど、各国によって保険は厳格なルールがあるのです。
医師や歯科医はこの国民皆保険制度のルールの元、国が決めた規則に従って診療を行う義務があるのです。
国民皆保険制度は世界にも胸を張れる世界トップの制度(大阪府医師会)
誰でも、どこでも低価格で保険の恩恵を受けることができるこの制度は、病気や怪我にとって非常に素晴らしい制度です。しかし、歯科に限ってはどうやら状況が異なるのです。
救命や急性の病気に主眼をおいた保険治療は歯科にとって不利
日本の国民保険は昭和20年台に出来上がり、仕組みは救命や怪我、急性の病気を直すことに主眼をおいた制度になっています。これは当時を振り返ると理解することができます。
昭和20年8月15日日本は敗戦し、日本人は失望と生活苦を迎えます。明日が見えず目の前には貧困の日々です。失業と食糧難、飢餓と病気が国民一人ひとりに襲いかかります。
昭和20年の11月になると朝日新聞では「始まっている死の行進、餓死はすでに全国の街に」という見出しで報道がなされました。
全国で餓死者が出るという今では信じられない報道。
病の中でもとにかく結核患者が多く、年間15万人が死亡し患者数は200万人程度でした。しかし、医師も貧しく制度も整っていなかったため多くの若者が命を落としました。このような状況の中でカタチが出来上がった保険制度ならば、救命や急性の病気に主眼が置かれるのは当然のことだと思います。
しかし、問題なのが現代でも保険制度は救命と急性の病気に主眼が置かれているということです。延命治療には国からのお金は惜しみなく使うけれど、肩こりなどの慢性的な病の治療に対しては対処とはなりません。
そういった観点から歯科治療を見てみると、歯科治療は命を救うというような処置は非常にまれです。歯科治療の大半が歯周病とむし歯処置なので、命をとにかく救えば良いという医療ではありません。
“かみにくい”
“歯が痛い”
という具合の悪さは保険では十分に解消されないという問題が潜んでいるのです。
医師が行いたい治療は保険適応例が多数あるにも関わらず、歯科医が本当に患者さんに対して行いたい治療は保険が効かず、保険適応外になるケースが非常に多いのです。目で見える範囲で命に直接関わることが少ない歯科治療は、保険適応のものがどんどんと後回しにされているのです。
歯科は保険診療だけではベストな治療は受けられない。
歯科治療はむし歯の処置1つにしても様々な種類があります。
- 詰め物、被せ物などの材料
- それらを型どる手法
- 出来上がったものを接着する材料 など
無数の選択肢が存在しています。しかし、現在の保険治療では治療法も材料も最低限のものしか選べません。本来、患者一人ひとりにベストな処置というものは異なるはずですが、現在の保険のルールでは認められていないのです。
保険ではより精密な治療を受けるために顕微鏡を使うことも、高品質なセラミックを選ぶことも認められていないのです。また、治療回数も保険で決まっているので一度に処置を行うこともできません。また、保険には時間に対する評価項目がないので時間をかけて丁寧に処置を行っても評価はされません。必然的に多くの人をいかに効率的に処理するかが医院経営として重要となってくるのです。
むし歯になりにくい良い素材を使用し、再発を防ぐために顕微鏡を使用し時間をかけ処置を行うことは“贅沢”という分類に仕分けされてしまうのです。
保険の効かない自由診療は贅沢品なのか
むし歯を防ぐために、精密な治療を良い素材を使うことが果たして贅沢なのでしょうか。
コンプレックスの歯並びを直すことが果たして贅沢なのでしょうか。
歯を健康にするための予防が果たして贅沢なのでしょうか。
一般的に自由診療=お金が高い=贅沢品とされています。
だからこそ、本当に良いと歯科医が判断しても歯科医は中々自由診療を患者さんにオススメすることはできません。アナタも歯科医の方が申し訳なさそうにセラミックを進めてきた経験はありませんか?
本当に患者さんにとって良い治療でも
自由診療=高い=拒否
という認識があるため、オススメするのが難しいのです。
時代の流れとともに見直すべき保険制度と自由診療への考え方
現在、歯科の研究がすすみ、口腔内の細菌が様々な病気に起因することがわかってきています。例えばむし歯治療一つをとって見ても保険の治療である金属での詰め物や被せ物にはどうしても限界が生じます。限界を超えて金属の素材を使用することで歯の再治療を繰り返すことになり、最終的に行き着く先は抜歯です。
一度抜歯をしてしまうと、他の歯もつられて抜歯の運命をたどり、気がつけば日本の多くの高齢者が歯がないという悲惨な現状を迎えました。
歯がないことで様々な病気を引き起こし、結果として治療費がかさみ、保険料の増加へと繋がるのです。
こうした時代の流れとともに保険制度はもっとしっかりと歯科に焦点を当てた見直しが必要です。また、患者である私達も自由診療に対するアレルギーや色眼鏡を一度取り払って長い目で自分の身体のケアを考える必要があるのです。こうした保険の現状と、歯科には保険と自由診療の両方の治療があり、自由診療はただの贅沢な治療ではないということを知らなければなりません。
自分の内蔵を取り替えることになったら、アナタは高くなったとしても少しでも良いものを選ぶはずです。歯も身体の1つであり、決して軽視してはいけない臓器と同じ価値のあるものです。毎日のペットボトル1本にはお金を使うのに歯にはお金を使わないというのはおかしいと気が付かなければいけません。
高齢者の人口が増え、生産力がどんどんと落ちていく現代日本にとって、保険制度というのはいつまでも続くものではありません。十年後にはもうなくなるかもしれないのです。そうなった時に自分の身体を守れるのは自分しかいなくなります。
毎日ペットボトルに入った砂糖水を飲んでいるのならば、その分自分の身体という最大の財産にしっかりと投資することも考えてみてはいかがでしょうか。
以上になります。
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